2010年6月16日水曜日

すべてが夢の中の出来事のよう

ピナ・バウシュが亡くなってずいぶん経ちますが、新しい芸術監督と共にブッパタール舞踏団による追悼公演がありました。演目は日本では未上演の代表作『わたしと踊って』です。http://eplus.jp/sys/web/s/pina/index.html

日曜日に観に行ったのですが、洒落ていて、ユーモアがあって、憂鬱で、すべてが私の好みの世界。そしてとても現実的で心の痛くなる物語でした。
「私と踊って! 私に触れて!」と、白いスーツの男に繰り返す主人公の彼女。時に他の女を膝に乗せ、時に彼女に優しくしてみせる彼は、それでも舞台から消える事はなく、いつも彼女を悩ませている。それはつれない恋人か、はたまた世界の象徴なのか。

特に大きな展開もなく、カタルシスを迎えられないまま、美しく憂鬱な動きだけが舞台の転換もなく2時間続くその舞台はまるでどこにも出口のない夢の中の出来事のよう。

一度偶然にピナバウシュ本人に遭遇した事があるのですが、メディアで見る通りの美しく穏やかで知的な女性。才女としてすべての名声を得てきた彼女のどこからこんな憂鬱が生まれるのか?
誰からも愛されたであろう彼女が、なぜこんなにも寂しがって、愛情に飢えた女性を描くのか?

けして大衆向けとは言えないジャンルの芸術なのに彼女が圧倒的な人気を誇るのは誰もが持っている自分勝手で人間臭い悩みを、美しいダンスとともに目の前に提示してくるからなんだろうなあと、ぼんやり夢の中で思うのでした。

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